脱貧困の経済学
たまには文学以外も読みます。
いろいろとワーキングプア関係で有名な雨宮さんが、経済学者に無理難題*1をふっかける対談。対談というか、飯田さんから雨宮さんへの授業みたいな感じ。最後に飯田さんから雨宮さんの要求への回答が載っています。
面白かった。
すごく適当なまとめ。(主に飯田さんの主張)
- ベーシックインカム良いよね。全額をいきなりやるのは無理だけど。
- 日本の所得の再分配は間違っている。
- 減税されてるのって金持ちだけじゃん。
- 賃金を上げるのではなく、セーフティネットを充実させるべき。
- リフレしろ。
- 国際競争? なにそれ、おいしいの?
- 経済成長は年2%必要。
- もっとみんな生活保護申請すべき。
気になるのは、雨宮さんの「全員分の仕事ってあるの?」という質問に、飯田さんが最後に「ある」と答えているんですよね。ここがちょっと説明足りない。
以下、本文より抜粋。引用部以外は私の意訳を含んでいると思ってください。
−−雨宮 こういうセーフティネットの話をテレビの討論番組などですると、かならず「財源を示せ」だとか、「文句を言うのであればその制度を設計しろ」だとか言われます。……(中略)……方法を提示できなきゃ意見を言っちゃいけないという、封じ込めのひとつが「財源」という言葉だと思いますね。
−−飯田 「財源」とさえ言えば返答に窮するだろうと思っているのでしょうね。それに対しては有効な反論があります。……(中略)……日本は「再分配する前」、つまり単純な収入の不平等度と、どこかからお金をとってどこかに渡した「再分配の後」の不平等度がほとんど変わらない、という変な国なんです。……(中略)……日本の財政が動かす額は、GDP比でいうとアメリカよりも全然多いんですよ。……(中略)……この予算を振り替えるだけで、財源なんかなくたって、けっこうな問題が解決すると僕は思うんです。
- (飯田)プレカリアート*2と対立しがちな中流は、本人たちが思っているほど金持ちじゃない。にもかかわらず低所得者への蔑視がすごい。
- (飯田)小泉改革の「貧乏人を甘やかしちゃいけない、どんどん稼いでいるお金持ちにこそ報いるべきだ」というレトリックに感心したのは年収600万円前後の中流層だと思われる。
- (飯田)サービスの質についてはともかく金額で考えた場合、国や地方公共団体から受け取っているサービスの額よりも多くの税金を収めているのは年収1000万円以上の人。
- (飯田)日本の財政がここまで破綻したのは、金持ちを減税したのだから、当たり前。もっと累進性を上げるべき。現在所得税の限界税率は40%だが、これは課税年収が1800万円以上の人の話。彼等は税率を上げても働かなくなるような層ではない。
−−飯田 ……(中略)……貧困対策の「財源」を問われたら「アメリカとイギリスは全然少ない予算でもっと上手くやっていますけど?」と言える。
条件が違いますからまったく同じにはならないけれど、予算規模がだいたい同じくらいのイギリスと同じ対策をやれば、日本は北欧に次ぐ世界トップクラスに平等な国になります。……(中略)……でも、北欧レベルにまで平等にあんってほしいと思っている人はそんなに多くない。だから甘い読みとしては、再分配の是正だけでほとんどの問題は解決するんじゃないか、と思っているんです。
- (雨宮)フルで働いた場合の収入が「最低生活費」以下なら、貧困と見なして良いのではないか。例えば東京23区で20歳から40歳までのひとり暮らしの場合、家賃込みで生活保護費は月13万7400円、というのが国の定める最低生活費。
- (飯田)「もっと努力していたら、あなたの人生はもっとよくなりましたよ」というのは間違いではないが、イス取りゲームのイスの数自体が足りないのは自己責任ではない。
- (雨宮)都市の貧困層には選挙を気にする余裕がない。住民票を移していないひとも多く、選挙に行く暇もない。*3
- (飯田)若者からお年寄りへの再分配は、現在75歳以上の人*4に限れば必要。なぜなら彼等の若い頃は戦後の復興期であり、戦争のために払った犠牲が他の世代とぜんぜん違う。
- (雨宮)生活保護の申請をしない人が多い理由。まず本人に自分が貧困であるという意識がない。「最低生活費」という言葉やその額が知られていない。そして知識がないところへ不正受給の例が大きく報道されるため、世間の精神的な壁が高い。*5
- (雨宮)派遣村の活動の成果は「特例」ではない。家がなくて所持金がなかったら、生活保護は絶対に通る。
- (飯田)ベーシック・インカムも貧しい人に限定すれば現実的。
- (雨宮)不安定雇用層は女性が多い。成人男性にまで貧困と不安定雇用が及んできて、やっと社会問題になった。
- (飯田)人間は放っておいても平均毎年2%くらいは効率が良くなる。でも経済成長が1%なら、1%の人間は不要になる。
- (飯田)日銀はお札を刷って人為的にインフレさせるべき。具体的にはインフレ率が3%を超えたらマネー供給を絞る。逆に1.5%以下になったらインフレ政策をとる。お札を刷って給付金にするとか。*6
- (飯田)定額給付金って、あの10倍、あるいは所得制限を設けて20倍とかにすれば効果があったんじゃないかと思う。*7
- (飯田)日雇い派遣などを規制すると「日雇いの仕事があれば生活できる人」があぶれてしまう。「日雇い派遣+公的補助」で暮らせるようなシステムを作るべき。
- (雨宮)「働く意欲のないホームレスを助ける必要はない」というバッシングがある。
- (飯田)何もする気が起きないというのは一種のトラブルを抱えている状態。
- (飯田)日本の失業統計では、就職活動をやめると失業者としてカウントされない。交通費を損するだけ無駄、という状況で就職活動を止めるのは合理的な判断なのに。