青春俳句講座 初桜

積読書消化中、というわけでだいぶ前に一目惚れして買ったハードカヴァ。やっぱり重たい本はなかなか手をつけられないよね。文庫最高。

「隣りの教室からカンニングすることは可能でしょうか」

こういうミステリも好き。
別に私は毒や百合ばかりを求めて生きている人間じゃありませんよ?
あ、でも一話目はちょっと百合っぽくて良かった。


卒業までに句集を出すことを目標にして日々俳句を学ぶ女子高校生さとみ。まだ桜の残る五月の定期試験、彼女の答案は、何故か隣の教室の生徒のものとそっくりだった。ただ一つの設問を除き、空欄にした箇所まで含めてまったく同じ回答なんて事が有り得るのか? しかも、現代文で。
そんな魅力的な謎から始まる三つの物語。まぁ、ミステリ読みにとってはハウダニットじゃなくて基本的にはワイダニットなんだと思う。特に一話目の動機が素敵。
たぶん多くの人が思ったことだろうけれど、北村薫の「円紫師匠とわたし」を思い出してしまう構成。さとみの俳句の師匠こと花鳥先生が探偵役なのだけれど、この人が解決を勿体ぶることと言ったらない。ていうか俳句の話ばっかりしてます。いやそれはとても正しいのだけれど。
何を聞いても季節と俳諧の話になって帰ってくる会話スキルがすごい。「見えないものは見えない」と語る師匠は弟子たちによく宿題を出していく。それは要するに「見えているんだから気付きなさい」と言っているのかも。見たままに詠むのが俳句であり、気付かせようとするのは彼の指導。彼は徹頭徹尾、俳句の話ばかりしていると言っても過言ではない。実際、読み直してみると考え方のヒントはちゃんと与えているし。
俳句とミステリの共通点とは発見ということ、と言ってしまうと言葉が足りないか。
のんびりとした雰囲気、魅力的な謎、俳句に留まらない蘊蓄、蘊蓄で終わらない師匠の思考回路。
良い話でした。
一番印象に残った科白は

「二十歳を過ぎるまでは故郷のことを考えてはいけません」

というもの。何しろ師匠曰く、二十歳を過ぎても親孝行しないのはただの困ったさんらしいので。
……二十歳か……。

青春俳句講座 初桜

青春俳句講座 初桜

どうでも良いけど著者紹介が「長野県出身。」だけなのにはちょっと笑った。