みすてぃっく・あい

百合とかそんなことはどうでも良い。これは良いトンデモ本。第1回小学館ライトノベル大賞・期待賞受賞作。
確かに期待賞ものかもしれない。謎解き部分の書き方がわざとらしいのを除けば上手いんじゃないかと。ただ「少女セクト」をきっかけに書いた*1という割にはあまり百合の意味がないような……。いや、少女セクト未読なんですけど。
裏表紙のあらすじによると、生徒が四人しか残っていない冬の女子寮での百合三角関係がテーマにしか思えない。なのに蓋を開けてみたらSFファンタジィ風ミステリホラー、みたいな(いや、本当に)。まぁ新鮮味はあったし面白かったから良いけど。ていうかあらすじを真面目に書かれてたら手に取らなかったかもしれないけれど。
小学館がこんな売り方をするのは、魔術だ虚数量子力学だ、って話には読者が飽きていると踏んだからなのかしら、と裏読みしてみる。というか、なんで百合なのかと考えていくと、舞台上の要請としか思えない。べたべたな幼馴染みの気持ちに、異性だったら普通気付くよな、という指摘は避けられるし、同性同士のクローズドサークルのほうが自然だし。
まず間違いなく言えることは、タイトルや絵柄や裏表紙のあらすじを読んで本書を買うとまず間違いなく裏切られること。そして次に言えることは、その裏切りすら作品の一部なのではないかと思えてくること。キャラも立ってるし、読みやすい。どうして買ったのかも思い出せず今まで積んでいたのが馬鹿らしくなる程度には良作。人によってはカッティング以来の超展開かも。

実際、物語としては中途半端でちぐはぐ。だがそれもまた雰囲気の醸成に貢献しているように見えたりするのだから、これは成功、なの……? 実際、雰囲気の部分を犠牲にするとただのショートショートになりかねないからなぁ。なんとも評価に困ってしまう。何度も言うように、楽しめたのは確かなんだけどね。

みすてぃっく・あい(ガガガ文庫 い 3-1)

みすてぃっく・あい(ガガガ文庫 い 3-1)

冒頭から「法の書」*2を暗唱して先輩に起こされるのには噴いた。魔術関係の蘊蓄、数えるという行為に熱中する少女、月の不在証明、カバラ、ブラッディハンバーグ、等々、まぁ最近のSFファンタジィとしてそこまで凝ったことをしているかといえばそうでもないのだけれど。
そういえばせりかが玉葱について語っていた部分だけは設定に矛盾するように思えるんだけど?

*1:「ガ報第0005号」でのインタビューより。

*2:アレイスター・クロウリーの書いた魔術書