死神ナッツと絶交デイズ

 −−選択肢その一、夜空さんが死に、詩夏さんが生きる、詩夏さんの世界。
 −−選択肢その二、詩夏さんが死に、夜空さんが生きる、夜空さんの世界。
「さぁ、どっちにする?」

冒頭からこの科白。秀逸だと思いました。
やっぱり本を売るにはインパクトがないと……、
そんでもって、状況を説明するための前日譚へと続き、
問題の二人の少女との出会いが描かれます。
そこでの詩夏の登場シーンが素晴らしかったんです。
序盤からこんなに面白いなら買ってみようって気になるじゃないですか……。


まぁ、ご察しの通り中盤から失速したわけですが。
だいたい、冒頭の科白から想像できる通り、
この物語は二人の少女を救うべく主人公がなんかいろいろ頑張る話なわけです。
でもって当然、二人とのかけあい漫才っぽいのがあると期待するじゃないですか。
だって「死なせない」ために頑張るんだし。


……と思っていたら、セカイ系でした。
ある日を境に、どちらかの少女が死んでしまっている二つの世界を交互に体験する、
という奇妙な現象に巻き込まれる主人公。
二人は親友だったため、どっちの世界の少女にしても、
ブコメなんぞに発展するわけがないのです。


まあ他にもごたごたあって、「二人が助かっている世界」を見つけだし、
選択することがこの作品のテーマになるわけですが、
それっぽい雰囲気とかギミックはあるんですけれども、どうにもいまいち。
「よく解らないけれども少女の心をどうにかしたらどうにかなりました」
だなんて、納得できよう筈もなく。
世界がおかしくなった原因も、なんで主人公が世界決定の不確定要素なのかも、
自称死神少女の正体についても、一切説明無し。




おまけに、クライマックスから、世界が助かるまでの過程も意味不明。
無理矢理考察すれば、こんな感じ?

  1. 詩夏の選択により、一旦は「夜空の世界」に確定。
  2. しかし、マイナス思考に走った夜空が、自分の生きる世界も否定。→ 崩壊開始。
  3. 主人公がなんとか夜空を宥めたけれど、時既に遅く、「夜空の世界」も消失。
  4. 二つの世界の可能性が失くなってしまったおかげで、非常に影の薄かったもう一つの世界の可能性が見えるようになった。

でも作中の描写を見る限りでは、
単に「夜空が自分の心の問題を解決したら、もう一回世界を選択できた」
としか読めないんですよね。
なんでそれが引き金なのか、説明してくれよ、と。


……ていうか、ふと思ったけど、これって「自称死神と出会わなかった世界」なんですよね。
ってことは、実は世界の分岐は死神との出会い時点で一回起こっていたということなのでしょうか?
この分岐における観測者は死神であり、
「主人公と出会うが、事件が発生する世界」を捨てて、
「主人公と出会わず、事件の発生しない世界」を選んだってこと?
そう考えると、なかなか面白い話だったのかもしれない。


ちなみにそういった設定に関する事項とはまったく関係もなく、
詩夏の登場シーンでの素敵な一言。

「ホロー君に衝撃と書いてインパクトを与えたい」

突飛な行動を意図的に実行してしまう大胆さと、
きちんと反省するだけの慎重さを備えており、とどめにこの科白。
単なるラブコメとして続編を出されたら買っちゃいそうで困る。
(散々否定しておいてそれかよ)

死神ナッツと絶交デイズ (MF文庫J)

死神ナッツと絶交デイズ (MF文庫J)