黒白キューピッド

普通のラノベで満足できなくなっているような人にお勧め。中村九郎ラノベ作家で一番難解な作家ではなかろうかと。舞台設定だなんだかんだより、頭の悪い(褒め言葉)文章が盛りだくさんの素敵空間に酔いしれませう。
とはいうものの、デビュー作ということでなのかどうかは知らないが、意味不明度はそんなに高くない。アリフレロを読んで奇声を発するような人でもこれなら大丈夫かも。
『七色キューピッド』というオンラインゲームは自分の秘密を担保にプレイする特殊なゲームである。普通に考えたら問題だらけで発売中止になりそうなものだけれどそれはそれ。「クリアしたら現実世界にも天使が現れる」という噂を聞きつけて参加した加藤と、「恋をするため」という不思議な理由で始めたメイジ。時を同じくして現実世界で怪奇現象が起こり始めて……という物語。

黒白キューピッド (集英社スーパーダッシュ文庫)

黒白キューピッド (集英社スーパーダッシュ文庫)

とにかくよく解らない。面白かったのかどうかも解らない。評価に戸惑ってしまう作品。
以下、感想文のなりそこない。
オリジナリティ溢れる無茶な文章のセンスにしびれます。読みにくいったらありゃしない。そしておかしいのは文章だけじゃなくてヒロインの名前も。『鈴木メイジ亜惰夢子』って何を考えてつけたんだか。ちなみに通称はメイジ、ネット上では夢子と名乗る。まぁ、この名前自身が「夢見がちで得体の知れない不思議少女」というメイジの属性を表しているとも言えるのだけれど。対する少年の名は加藤。孤独でゲーマーで我が儘で厭世的で短気。現実に飽き飽きしている、ある意味で普通の少年。
冒頭の加藤はメイジを脅迫したり誰かから監視されているようなメールを受け取ったりと、ミステリや恐怖小説の第一被害者にでもなりそうなフラグだらけだったのだけれど、気が付けばメイジとパーティを組んでゲームをすることに。というか、メイジに籠絡されただけかも。

基本的にどちらも自分勝手。加藤とメイジが、それぞれ少年的で少女的だと感じた。おそらくはあたかも他人事といった風な描写のせいだったり、少年、少女、という表現が多様されるからかもしれない。メイジは他人の視線を意識できるが、加藤がそれを意識する描写はない。逆にメイジはよく後先を考えずに行動する。「恋をするために」ゲームを買うだなんて、加藤には理解できない。
かといってメイジは守られているだけの人間ではなく、気が付けば加藤の知らない間に自分で力を身につけてしまう。その過程というか理由は加藤と比べて理不尽極まりないように思えるのだけれど、それもまた「少女だから」といったことなのだろうか。

「自分だけ助かろうとした」と夢子が白い眼を突き刺してきた。
「おまえだって、自分だけ逃げようとしただろ」
「わたしは自分だけ助かろうとしたけど、加藤まで自分だけ助かろうとした」

わざとなのだろうけれど、ゲーム内の描写なのに「白い眼を突き刺してきた」というのはどういうことか。他にも似たような表現はたくさんあり、つまりはゲーム画面がゲーム内キャラクタの視点になっているということなのだろうか。それにしたって現実世界をトレースしたりと割とやりすぎ巻の漂う設定だけれど。まぁ、ある意味伏線といえば、言えるのかも。

余談ながら、カラー口絵でメイジに脱がされる加藤の表情は非常に腐女子受けしそうな気がした。